特別座談会
重見:
先ほど、工場を見学させていただき、実際に目の前で1本1本、人の手を経て整えられていく過程を初めて目の当たりにして、すごく感動しました。
森川:
1本、2本を作るのと、わけが違うじゃないですか。あれだけの数があれば、ロット数も大量だと思うんですけど、それを全部手作業で行っていらっしゃるなんて、それ相応の筆に対する思いがないとできないと思います。出来上がるまでの間で何人が、この1本を手に取ったのか知りたいくらいです(笑)。
重見:
ていねいな工程を経ているからこそ、1本の筆を通し、作り手の思いが伝わってくるというか…、その筆の存在感やパワーを感じます。使い勝手の良さはもちろんですが、そういう背景って、心に影響しますよね。
森川:
それにしても職人さんの感覚ってすごいですよね。例えば、枠のようなものがあって、毛束をトントンって揃えて、分量が間違いないかを判断されていたり。それは長年の経験がなせる技だと思うんです。
三島:
確かに、長年の経験で得た、職人たち独特の勘のようなものを頼りにした工程もあります。動物の毛を使用していると、太さや状態など、個体差があり安定しないので、重さや本数などの単純なスペックだけでは、どうにもならない部分というのがあるんです。
箕浦:
僕が入った当初は、筆は同じものは二度とできないって言われてましたから。同じ身から出たものでも、良し悪しってあるんですよ。だから筆を選ぶ際には、よく吟味してほしいなと思います。
三島:
確かに厳密に言えば、違いがあるかもしれません。でもそれが味に変わるといいな、と思うんです。。
森川:
そういうことであれば、なおさら同じ番号が振ってあっても、ちゃんと使う側もこだわって選びたいですね。
箕浦:
お二人は筆を選ぶとき、どのように選ばれることが多いですか?
森川:
筆の選び方は、メイクのスキルが上がるにしたがって、変わってきたような気がします。
重見:
最初は、誰かが使っていたものを真似して使ってみることもありました。尊敬する人と同じものを使えば、上手になれる気がしてたんでしょうね(笑)。でも、「あんなに有名なアーティストが使ってても、これは使いにくい!」とか、色んなものを試すうちに、自分でジャッジすることができるようになっていきました。今は、実際に筆に触るだけで、使いやすそうとか、使い心地までも想像できる感じです。
森川:
自分たちがそのようにして成長したこともあって、後輩たちから聞かれれば、どこメーカーのどの筆か、全部教えています。
三島:
作り手側からすると、実際に使ってみた人が、第三者にお勧めしたくなるような商品を作りたいです。「最初に出会ったときの感動を人にも分けたい」って、自然と思っていただけるような商品作りを心がけているんです。